クラシックディスク・今月の3点(2024年11月)
チャイコフスキー「ロココの主題による変奏曲」※、ショパン「チェロ・ソナタ」、ドヴォルザーク「ユーモレスク」、ラフマニノフ「メロディー作品21の9」、ショパン「夜想曲ハ短調」、ドヴォルザーク「我が母の教えたまいし歌」、ラフマニノフ「ヴォカリーズ」※、ショスタコーヴィチ「ワルツ第2番」
エドガー・モロー(チェロ)、ダヴィッド・カドゥシュ(ピアノ)、ミヒャエル・ザンデルリンク指揮ルツェルン交響楽団※
ユダヤ系フランス人のチェロ奏者モローは2011年、17歳の時に「ロココ変奏曲」を弾いてチャイコフスキー国際コンクール第2位を獲得、「いつか録音したい」と願ってきた。30歳の誕生日(4月3日)を目前に控えた2024年4月、ルツェルン響と2日間の演奏会で同曲を弾く機会をとらえ、管弦楽付きの作品はカルチャー・コングレス・センター、ピアノとのデュオはオルケスター・ハウス・クリーンスで録音セッションを組んだ。指揮はチェロ奏者として1987年のマリア・カナルス国際コンクール(スペイン)優勝した経験を持つザンデルリンク家の三男坊、ミヒャエルなので危なげがない。非常に緻密な共演を繰り広げている。
母のルーツはポーランドのユダヤ人ファミリーということで、カップリングにはショパンの長大なソナタとロシア&東欧の小品が並び、長年のパートナー、カドゥシュとの親密なデュオで魅了する。2024年9月の来日でも確認したが、モローはいよいよ円熟期に入った。
(ワーナーミュージック)
ショーソン「ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲(コンセール)」
エリック・ル・サージュ(ピアノ)、樫本大進(ヴァイオリン)、シューマン弦楽四重奏団(第1ヴァイオリン=エリック・シューマン、第2ヴァイオリン=ケン・シューマン、ヴィオラ=ファイト・ハーテンシュタイン、チェロ=マーク・シューマン)
ヴィエルヌ「ピアノ五重奏曲」
エリック・ル・サージュ(ピアノ)、樫本大進(ヴァイオリン)、ナタリア・ロメイコ(同)、ユーリ・ジスリン(ヴィオラ)、クラウディオ・ボルケス(チェロ)
しばらく前にアップルミュージックのサブスクで見つけ、繰り返し聴いていた録音。2024 年5月にベルギー・ワロン地方の都市ナミュールで行われたセッション録音だが、ショーソンとヴィエルヌで樫本以外の弦楽器奏者が一変しているのが面白い。日本人を母とするシューマン3兄弟のカルテットには近々、サントリーホールのチェンバーミュージック・ガーデンでベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲を演奏する計画がある。長男エリックは2023年9月、久々の来日リサイタルで大きな進境を示し、現在はドイツのヘッセン州立表現芸術大学(フランクフルト音大)の教授も務める。もう一方のヴィエルヌは、スター奏者が揃っている。ヴィエルヌは視覚障害とともに生きオルガン奏者として活躍、苦悩に満ちた人生の中でも長男を第一次世界大戦で失った喪失感は深く、「ピアノ五重奏曲」にはそれが色濃く現れているとされる。演奏は清新な感覚にあふれ、すっきりとした造型が作品の再評価を迫る。
アデス「コート・スタディーズ(歌劇《テンペスト》より)」、メシアン「時の終わりのための四重奏曲」
久保田巧(ヴァイオリン)、長谷川陽子(チェロ)、亀井良信(クラリネット)、廻由美子(ピアノ)
円熟期に入った日本人演奏家4人がそれぞれ少しずつ異なる主戦場からスキルを持ち寄り、多面的に展開するメシアンが面白い。英国の現代作曲家トーマス・アデス(1971ー)が自作のオペラを素材に、メシアンと同編成で書いた小品とのカップリングも気が利いている。2024年3月16〜19日、神奈川県・相模湖交流センター ラックスマンホールでセッション録音。CDとSACDのハイブリッド盤。
(妙音舎、販売=ナクソス・ジャパン)