タワーレコードがオリジナル企画でUHQCD仕様の6枚組「山田一雄 最晩年ライヴ集1989−1991」をシリアル・ナンバー付、700セット限定で発売した。チェリビダッケやショルティ、K・ザンダリンク、ヴェーグ、ライトナー、ラインスドルフ、マルケヴィッチら「花の1912年組」の列に堂々、日本から連なるマエストロだった。通称、ヤマカズ。今日では気鋭の指揮者、山田和樹(1979〜)が自らを「ヤマカズ@21」と名乗るため「元祖」とか「本家」とか「先代」と呼ばれる偉大な作曲家&指揮者である。
大正デモクラシーの空気をたっぷり吸って極上の教養を身につけ、マーラーの弟子だったクラウス・プリングスハイムの薫陶を東京音楽学校(現在の東京藝術大学音楽学部)で受け、マーラー「交響曲第6番」の日本初演に打楽器で参加。第2次大戦後は「千人の交響曲」や「春の祭典」の日本初演も指揮。戦争で多くの肉親を失ったこともあって左翼思想に共鳴、あり余る音楽への思いが極めて不明瞭な棒さばきになってしまったり、オーバーアクションで指揮台から落ちたり……で、生前はなかなか評価の分かれる指揮者だった。私や片山杜秀さんの世代は音楽に夢中になった学生時代、日本のオーケストラを指揮する日本人のマエストロの中でも最も生気に富み、愛とユーモアに溢れる音楽を引き出した存在として、強く印象に残っている。その辺の思い出は新聞社勤務時代、訳あって無署名でアップされた電子版の記事に詳しく書いた。自分が生まれて初めて聴いた「千人」も山田が藤沢で東京都交響楽団を指揮したもの。音楽の楽しさ、ライヴの快感を教えてくださった偉人だった。
https://style.nikkei.com/article/DGXNASFK2500M_V20C12A4000000?channel=DF130120166055
今回のボックスは山田の晩年、緊密な関係にあり、海外公演にも同行した新星日本交響楽団(後に東京フィルと合併)がポニー・キャニオン向けに制作したライヴ録音の集大成。当時、同社勤務だった現オクタヴィア・レコード社長、江﨑友淑がリマスタリングを担当し、自身の「Exton」レーベルを冠した。収録曲目などは、タワーレコードのホームページをご参照! 東ベルリンの時代のシャウシュピールハウス(現コンツェルトハウス)での白熱のライヴ、ベルリオーズの「幻想交響曲」も久しぶりに日の目を見た。
https://tower.jp/article/feature_item/2018/09/19/1110
とにかく、すごい熱気だ。「昭和って、濃く、熱い時代だった」と微苦笑しつつ、全身全霊をこめた山田の音楽に圧倒される。ヒンデミットの「いとも気高き幻想」ではないけれども、生涯を通じて理想を追求したマエストロの「思い」が新星日響の楽員全員に浸透し、かなり不明瞭なバトンテクニックにもかかわらずアンサンブルは求心力に満ち、山田の音楽を克明に実現していく。時にもの凄い即興デフォルメにも出くわすが、鋭い感性と深い愛情の産物ゆえ、下品に陥ることはない。むしろ大正生まれの教養人の品性確かな音楽に、襟を正さざるをえない。音楽を知りたくて知りたくて、未知の作品に会いたくて、複数の交響楽団の学生定期会員だったころ、いずれのオケの常任でもないのに時々現れ、いつも大きな満足を与えてくれたのが「先代ヤマカズ」だった。我が心の師、渡邉暁雄に続き、山田一雄にも正当な再評価の場面が訪れ、このように素晴らしい音源が登場したことは本当に嬉しい。
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