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前橋汀子・葵トリオ・磯村和英・夕鶴

執筆者の写真: 池田卓夫 Takuo Ikeda池田卓夫 Takuo Ikeda

クラシックディスク・今月の3点(2025年1月)


日本の西洋音楽史も蓄積豊富に
日本の西洋音楽史も蓄積豊富に

ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ全集」(第1〜10番)

前橋汀子(ヴァイオリン)&ヴァハン・マルディロシアン(ピアノ)

2023年6月から2024年1月にかけて岐阜県のクララザールじゅうろく音楽堂でセッション録音。第5番《春》と第9番《クロイツェル》は1986年にクリストフ・エッシェンバッハと入れて以来の再録音に当たるが、他は初のディスク化。1975年生まれのアルメニア人ピアニスト、マルディロシアンはイヴリー・ギトリス(1922ー2020)の伴奏者として前橋が出会い、実際の共演へと発展した。指揮者としても活躍するだけに音楽のつくりが構造的で、前橋の多彩な表情に隙なくつけていく。録音までの10年間、前橋はベートーヴェン後期の弦楽四重奏曲の演奏会を重ね「ヴァイオリン・ソナタへの全く新しい視点を得た」上で、念願の全曲盤を完成した。第1番から一貫するテンションの高さ、ベートーヴェン軌跡を克明にたどる真摯さで強い説得力を放つ演奏だ。CD/SACDハイブリッド盤4枚組。

(ソニー)


モーツァルト「ピアノ四重奏曲第2番K.493」/ ブラームス「ピアノ四重奏曲第1番」

磯村和英(ヴィオラ)、葵トリオ(秋元孝介=ピアノ、小川響子=ヴァイオリン、伊東裕=チェロ)

磯村(1945ー)は1969年の結成から2013年の解散まで東京クヮルテットに在籍した唯一のメンバー。1970年には旧西ドイツのARDミュンヘン音楽コンクールで日本人の室内楽チーム初の優勝に輝いた。葵トリオが2018年の同コンクールで得た第1位は「東京クヮルテット以来の快挙」と称賛された。偉大な弦楽指導者となった磯村は現役のヴィオラ奏者でもあり、葵トリオとの「夢の共演」が2023年12月20&21日、東京・三鷹市芸術文化センターでのセッション録音の形で実現した。モーツァルトを聴いて思う。「葵の3人がいつもよりじっくり、大人の音楽を奏でているのは磯村が注ぐ滋味の賜物だろう」と。ブラームスに入ると次第に熱を帯び、今度は磯村が若い情熱の本流に取り込まれ、激しい燃焼をみせる。日本の洋楽受容史や演奏家の世代論の観点からも、極めて面白い録音に仕上がった。

(ライヴ・ノーツ=ナミ・レコード)


團伊玖磨「歌劇《夕鶴》」全曲

砂川涼子(ソプラノ=つう)、清水徹太郎(テノール=与ひょう)、晴雅彦(バリトン=運ず)、三戸大久(バス=惣ど)、横須賀芸術劇場少年少女合唱団、沼尻竜典指揮神奈川フィルハーモニー管弦楽団

作曲家・團伊玖磨(1924ー2001)の生誕100周年の誕生日当日、2024年4月7日に神奈川フィルが音楽監督の沼尻竜典とともに行った記念上演(セミステージ形式)のライヴ盤(CD/SACDハイブリッド)。日本の創作オペラ史上最多の上演回数の記録を今も塗り替え続ける《夕鶴》の真価を、自身もオペラを作曲する沼尻と現時点のベストキャストで改めて問う気迫に満ちた演奏だ。神奈川フィルの演奏能力の急激な向上を聴くこともできる。

(エクストン=オクタヴィア・レコード)

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